研究概要 |
原子間力顕微鏡(AFM)を用いて,ヘキサン-メタノール混合溶媒中における表面間力(フォースカーブ)の測定を行った。温度を27℃に保ち,純ヘキサンから出発し,メタノール濃度を徐々に上げてフォースカーブへの影響を調べた。この混合溶媒は, 27℃では,メタノールの重量分率Xが0.12を越えると2液相に分離する。2つの表面の両方がメタノールと高い親和性を有する場合と, 一方の表面のみがメタノールと高い親和性を有する場合について実験を行った。メタノール濃度が高くなるにつれて,フォースカーブは引力側にシフトし,しかもより長距離化するという,代表者の理論解析結果と定性的に一致する結果が得られた。表面近傍には,メタノールの濃縮層(表面誘起層)が形成されているものと考えられる。「引力の及ぶ範囲〜2つの表面誘起層の厚さの和」という近似を使い,メタノールと高い親和性を有する表面(マイカ)近傍の表面誘起層の厚さL@@S2h@@E2と低い親和性しか有しない表面(硫化モリブデン)近傍の表面誘起層の厚さL@@S21@@E2とXの関係を調べた。L@@S2h@@E2は, X〜0.11で急激に増加したが, L@@S21@@E2にはそのような挙動は見られなかった。L@@S2h@@E2は実に15nmを越え,理論解析で見いだされた表面誘起相転移(表面誘起層の厚さが分子スケールから分子スケールを大きく越えるスケールに急成長する現象)を示唆する結果が得られた。マイカよりもメタノールとの親和性がさらに高い表面を用いれば,Xのさらに低い値で転移現象が起こるものと期待される。22.5℃においても同様の実験を行い,定性的に同じ結果が得られることを確認した。22.5℃で長距離性の引力が観測されていても,温度を27℃に上げ(他の条件は同一)と,引力は短距離性になることも確認できた。 以上のように,代表者が理論解析で予言した表面誘起相転移及び表面間引力の急なる長距離化を指示する結果が得られた。今後,種々の混合溶媒や表面を対象としたさらなる実験研究を実施し,理論解析結果のより確実な実験的検証を行う予定である。
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