研究概要 |
混合溶媒(二成分系の流体)中に微粒子などの表面が介入した系を理論解析し,バルクと異なる組成・構造を持つ表面誘起層の厚さδの急成長と共に,同一表面間に超長距離性の強い引力が出現する(力の及ぶ範囲L〜2δ)ことを見いだした。これは一種の転移現象であり,表面における第二相(表面相)の形成,即ち,表面誘起相転移である。この現象は,バルクが単相として安定な条件下でも起こり得る。最近,UBCのPateyらが,計算機実験によって,この理論解析結果が安性的に正しいことを検証した。 エタノール-ヘキサン系(バルクでは全組成範囲で単相として安定である)に対し,マイカ-窒化ケイ素プローブ表面間力をAFMを用いて実測し,観測された引力の及ぶ範囲Lをエタノールのwt%Xに対してプロットしたところ,X〜1.9wt%においてLの急増が見られた。これは,表面誘起相転移を示唆しており,親水性表面近傍にエタノールの高濃縮層(表面相)が形成されたものと考えられる。濃度がさらに高くなるとLは減少し(表面相は消失し)、理論解析と定性的に同じ結果を得た。しかし,実験結果では長距離性引力が観測される濃度範囲が非常に狭かった。その理由として,二つの表面が同じでない(マイカ表面に比べると,窒化ケイ素プローブ表面の親水性は低い)こと,一方が球ではなくプローブであることなどが考えられる。二つの同じ表面(親水性が同程度に高く,かつ,曲率ができるだけ小さい二つの表面)を用いた実験が今後の課題である。 しかし,上記の実験結果及び他研究者の実験データをも吟味した結果,表面誘起相転移が確かに実在し,これが,超長距離性表面間引力の起源であることをほぼ確認できたと考えている。
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