側鎖に大きな芳香族基を有するビニルポリマー(例えば、ポリビニルカリバゾール、PVK)には、固体状態で光電導性(カチオンを媒体とするホール電導)を示すものが多い。このような高分子系では側鎖間の相互作用はあまり大きくなく、電導過程は1つ程度の側鎖の芳香族基に局在化したカチオン状態が、近接した他の側鎖に電荷シフト反応を行うホッピング機構によると考えられてきた。このような高分子中の電荷伝達機構の解明は、基礎的な電子移動反応素過程の観点からも重要であるが、応用的にも、光・電子材料系物質の合理的設計に対する重要な情報を与える。 本年度は、PVK系の固体状態での光電導初期過程に対し、側鎖の位置の特定を可能とする時間分解分光手法(ピコ秒過渡吸収二色性スペクトル測定)を応用し、室温から77Kまでの温度範囲に於いて、側鎖間の電荷シフト反応に対する温度効果を検討した。その結果、側鎖間のカチオン状態のシフト反応(ホール移動)速度は、この範囲で全く温度に依存せず、本質的に活性化エネルギーを全く必要としないことが判明した。 また、更に数種の芳香族ポリマーを固体多孔性樹脂に吸着させ、その電荷分離状態の時間挙動を規測することによって、ホール移動過程を検討した。このような吸着系でも、高分子フィルム中と同様に大きな分子運動は抑制されている。また、更に、高分子鎖はそれぞれ独立した一本の鎖として取り扱えると考えられる。これらの結果でも、数十A以上の長距離にわたり電荷が伝達され、その結果として、超長寿命イオン対が生成したことを確認した。 以上、本年度の結果より、本質的に零点振動に対応するような小さな揺らぎで、電荷シフト反応が進行することが確認された。次年度に於いては、より高速のフェムト秒分光を応用し、更に詳細なモードの特定と制御に関する研究を展開する。
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