時間分解熱レンズ法により三重項状態生成の量子収率を決定し、励起一重項状態からの無放射遷移の機構を調べた。対象とした第一の分子は、無蛍光性のアントラセンカルボニル化合物である。9-アセチルアントラセンはアルコール系以外の溶媒で三重項収率がほぼ1であり、無放射過程は項間交差のみで内部変換は起こらない。対照的に、9-ベンゾイルアントラセンでは三重項収率がメチルシクロヘキサン中で0.2であり、内部変換が主な無放射過程である。9-ベンゾイルアントラセンの三重項収率は溶媒に強く依存し、極性溶媒で内部変換の寄与が減少する傾向がある。9-ブロム-10-ベンゾイルアントラセン、9-シアノ-10-ベンゾイルアントラセン、9-ナフトイルアントラセンなど多くのカルボニルアントラセンで内部変換が起こることを確認した。 高圧下での熱レンズ測定が可能な装置を製作し、9-アセチルアントラセンと9-ベンゾイルアントラセンのメチルシクロヘキサン中、4000気圧までのレンズ信号を測定した。9-アセチルアントラセンの三重項収率は圧力とともに増加し、1気圧で既に三重項収率がほぼ1であるため、理論的に考えられない結果となった。高圧下の測定に特有の原因があるかどうか、他の種々の系について検討する予定である。9-ベンゾイルアントラセンでは、上記の現象を考慮しても、明らかに圧力増加とともに三重項収率が増加する。高圧下の測定の信頼性を高め、巾広い系で高圧を利用した媒体依存性を調べたい。 常圧下で他に対象とした分子は、2-アセチルナフタレン、2-ベンゾイルナフタレン、9-アセチルフェナンスレン、1-アセチルピレンで、各種溶媒中これら芳香族カルボニル化合物において内部変換の寄与があることが明らかになった。また、無極性溶媒で蛍光量子収率がほぼ1である9、10-ジメトキシアントラセンで、極性溶媒で内部変換が起こることが明らかになった。
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