アズレンは大きな双極子モーメントを持つことから二量体を形成しやすいと考えられるにも関わらずこれまでに二量体やエキシマーに関する報告はない。また、アズレンはKasha則に反してS_1状態からではなくその上の_2状態から蛍光を発する特異的な分子であることが知られている。そこで本研究ではアズレンよりも大きな双極子モーメントを持つシアノアズレンを合成し、その発光特性を溶液および結晶中に加えて超音速分子流分光法、極低温マトリックス分光法を用いて測定し、エキシマーなどの錯体形成の有無を調べるとともにシアノ基導入による発光特性の変化をアズレンと比較検討を行った。 その結果、溶液の蛍光を測定したところ、1-シアノアズレンでS_1→S_0の発光が初めて観測された。逆にS_2蛍光はアズレンの10分の1に減少する。これはシアノ基導入によるエネルギーギャップの変化がその原因である。結晶中においてはこれら3分子は大きく長波長側にシフトした幅広い蛍光スペクトルが観測された。この大きくシフトした結晶の蛍光は結晶内の対構造に由来するエキシマー蛍光と考えられる。さらに超音速分子流中および溶液中で、エキシマー蛍光は見出せなかった。以上の結果から双極子モーメントの大きさによらず、アズレンおよびアズレン誘導体は結晶以外でエキシマーを形成しにくいことが分かる。このことは他の芳香族分子と比べると特異的であり、非常に興味深いものである。 S_1状態からのダイナミックスを調べる目的でシアノアズレンのホールバーニングスペクトルを超音速分子流中で測定した。その0-0バンドの不確定幅から1-シアノで1.8ps、2-シアノで1.0psの状態寿命が得られた。これは1-シアノでからの内部転換速度が遅いことを示している。 現在、メチルおよびフェニル誘導体について実験を進めアズレン化合物の光特性を明らかにする予定である。
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