本研究は概ね平成11年度当初に提出した研究実績報告書に沿った通りに行っている。昨年の研究成果を受け本年度は、第一にp-シアノフェニルピロールを対象とした「TICT現象に関わる分子変形の特定」。第二に「TICT現象に対する我々の解釈の一般性への拡張」を目的として研究を行った。その結果、問題となったp-シアノフェニルピロール551cm^<-1>振動の基準座標への帰属に関しては、日本大学工学部で行った度重なる分光実験と文部省分子科学研究所(岡崎)で行った高精度分子力場計算の結果、「TICT変形は電子受容基と供与基の間の伸縮方向の大きな変形」ではないか、との最終結論に達した。しかしこの結論は現段階では多分に推論の域を脱することが出来ず、より決定的結論を得るためにはさらなる研究も必要であることも判明した。本年度はこの第一目的を全うするために多くの時間と研究費のほとんどを費やしたことになる。いささか残念ではあるがゴールは間近であると確信している。ここまでの状況は近日公表される雑誌論文に記載されているので、これ以上の報告はとどめることにする。第二の目的についてはTICT現象を発現させるいくつかの分子で分光実験を行っているが、現在までのところフェニルピロール系に優る的確な研究対象は特定されていない。最後に本年度内にこの研究に関してなされた学会発表をまとめて示すことにする。 1.「Indirect Evidence of Non-Twisted TICT Phenomenon from Supersonic-Jet Laser Spectroscopy」The 63rd OKAZAKI Conference:Laser Spectroscopy of Molecular Clusters.1999年3月 分子科学研究所(岡崎) 2.「TICT分子p-シアノフェニルピロールの電子ベクトルの解析」1999年9月 分子構造総合討論会(大阪大学) 3.「孤立分子状態におけるTICT蛍光の観測-p-シアノフェニルピロール・CH_3CN系について-」1999年9月 分子構造総合討論会(大阪大学)
|