TICT現象は1962年E.Lipertらにより見出され、1973年にK.Rotkiewiczらにより命名された現象である。その後、様々な分子で確認され研究者の間でも認知され、この概念も一時定着したように思われました。しかし、わたくし自身「大きな分子変形と電荷移動現象」までは認めるものの、「本当に大きな変形がねじれ方向なのか?」という一点に疑念を持ち、その検証を2年間、当研究補助金を使いまして行いました。研究手段の主なものは超音速分子流レーザー分光法であり、代表的なTICT分子の最低励起一重項電子状態(S_1)への電子遷移を詳細に解析することで、その解決を得ようというものです。『最低励起一重項電子状態はTICT現象を発現している電子状態とエネルギー的に極めて近接しているから、振電的な相互作用によりお互い影響し合っているであろう』という考えのもと研究を進めてまいりました。その結果、代表的TICT分子のひとつであるρ-シアノフェニルピロールの電子遷移において電子状態混合による不規則なスペクトルを見出し、それを解析することで次の2点を明らかにしました。 1.電子遷移によるねじれ方向の変化は39゜から20゜へと、大きなものではなく、むしろ減少している。 2.最低励起一重項電子状態で394cm^<-1>の振動方に、分子は大きく変形している。 この内容および研究経緯は研究成果報告書の中で学会誌および口頭発表による成果発表というかたちでまとめられております。当研究補助金により学会誌2報(アメリカ物理協会AIP)口頭発表16件を行っている。 しかし、現段階でも『394cm^<-1>の振動の明確な帰属』に至っておらず、国内外の研究者とコラボレートしながら研究を進めている段階であります。
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