レナード・ジョーンズ溶液における相互拡散係数の圧力・濃度依存性の計算 超臨界溶液の動的性質の異常なものの例は2酸化炭素-アセトン系における相互拡散係数の圧力依存性である。通常は一定温度のもとでの相互拡散係数は圧力の関数として見ると単調に減少する。これに対し、臨界温度より少し高い温度での西海らの観測では臨界圧力付近に極小が見られた。 われわれはこうした溶液の超臨界流体の特徴をつかむためにまずレナード・ジョーンズ溶液を取り上げた。系はアルゴンとクリプトンの混合物である。計算方法は温度と圧力一定の分子動力学法を採用した。分子動力学法計算では周期境界条件を仮定するが、3次元ではこの立方体的セルのサイズを大きくとるのが容易ではないので、今回は2次元とし、溶液の濃度をいくつもとりかえて計算することにより、構造の揺らぎと相互拡散係数の濃度依存性を調べた。全分子数は1600個である。 シミュレーションは臨界点近傍の圧力とこれより高圧のものを比較した。輸送係数のうち特に自己拡散係数と相互拡散係数を重点的に計算した。相互拡散係数は場所的な濃度揺らぎの大きさと、片方の分子の重心の平均2乗変位の時間発展とによって計算した。濃度揺らぎの大きさは動径分布関数から求めた。 臨界点近傍の圧力・濃度において、濃度揺らぎが大きくなり、同種分子の運動の相関が大きくなる結果が得られた。両者は相互拡散係数をそれぞれ小さくする/大きくするという相反する性質を持つ。この系では濃度揺らぎが大きくなる傾向が勝つ。そのため相互拡散係数は自己拡散係数と比較して相対的に小さな値になることが分かった。この結果は実験の結果と定性的に一致する。
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