2次元レナード・ジョーンズ溶液における相互拡散係数の温度・密度・濃度依存性の計算 2次元空間でのシミュレーションなら濃度揺らぎを決定できることをまず確認した。輸送係数のうち特に自己拡散係数と相互拡散係数を重点的に計算した。相互拡散係数は場所的な濃度揺らぎの大きさと、同種同士および異種分子間についての速度相関関数の時間積分とによって計算できる。しかし濃度揺らぎの大きさの計算は容易でないので、計算例は極めて少ない。ここでは実際的な計算方法を考慮し必要最小限のセルサイズとして分子数1600を選んだ。濃度をモル分率で0.50に固定した相互拡散係数の温度・密度依存性の計算を行った。これから、超臨界状態で濃度揺らぎが大きくなるため、自己拡散係数と比べ相互拡散係数の値が相対的に小さくなる結果が得られた。 次に圧力を超臨界状態の値に指定して分子動力学シミュレーションを行って、相互拡散係数の濃度依存性を調べた。そこでも自己拡散係数と比べ相互拡散係数の値が相対的に小さくなる結果が得られた。これら超臨界状態では運動学的因子からは相互拡散係数を大きくする傾向があるが、濃度揺らぎが大きくなるため、熱力学的因子の方が勝って相互拡散係数は自己拡散係数と比べ小さくなることが明らかになった。超臨界状態で運動学的因子を具体的にミクロなモデルから計算した例は他には無いと見られる。 3次元レナード・ジョーンズ溶液における相互拡散係数の温度・密度依存性の計算 先の計算は2次元であったため、実際の系に近づけるために3次元レナード・ジョーンズ溶液における相互拡散係数の温度・密度依存性の計算を行った。基本セルに含まれる分子数は23328個である。濃度をモル分率で0.50に固定し、上と同様に相互拡散係数の温度・密度依存性の計算を行った。ここでも超臨界状態で濃度揺らぎが大きくなるため、自己拡散係数と比べ相互拡散係数の値が相対的に小さくなる結果が2次元の時よりもより明瞭に得られた。これは分子数が多くなったため計算における収束性が良くなったものと理解される。 密度の揺らぎの相関距離や濃度の揺らぎの相関距離も溶液の密度に激しく依存する様子が明らかになった。 また部分モル体積を求めた。この量は大きな異常性を示すことが見つかった。まだこうした量の巨視的なまだ観測はないようである。
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