1.ゼオライト細孔ネットワークにおける分子拡散の探求 光化学的手法を応用して、ダイヤモンド格子構造をとるフォージャサイト型結晶の細孔ネットワークにおける芳香族ゲスト分子の拡散速度を求め、拡散係数を決定する方法を考案した。すなわち、ゼオライトに吸着された芳香族分子の3重項をレーザー光励起により生成させ、別のゲスト分子への3重項-3重項エネルギー移動による消光を時間分解拡散反射分光法により観測した。そして、3重項ゲスト分子の消光動力学に関するランダム・ウォークモデルを構築し、実験的に得られた3重項分子の吸収の時間減衰曲線に関してこのモデルを用いて解析し、拡散係数を得た。たとえば、NaYゼオライトにおいて室温でのアズレン、フェロセン、アントラセンの拡散係数は2.1×10^<-15>m^2s^<-1>、4.8×10^<-15>m^2s^<-1>、1.5×10^<-16>m^2s^<-1>のようになった。NMR、MDなどの方法によりベンゼンのような簡単な分子の拡散係数のデータは既にあるが、その値は10^<-10>から10^<-13>m^2s^<-1>とかなりバラツキがある。またベンゼンより大きな分子の拡散係数のデータはほとんどないため、本方法により多くの分子について拡散係数を求めることには意義がある。 2.L型ゼオライト吸着系における芳香族分子の励起状態緩和過程 チャンネル型細孔を持つL型ゼオライトに吸着されたビフェニル、ナフタレン、アントラセンなどの芳香族分子は極めて特異的な吸着状態およびそれに基づく光励起緩和過程を示すことを見出した。チャンネルは分子の長軸をチャンネル軸(c軸)方向と一致させてとり込むと予想されるが、チャンネル内でこれらの分子は会合して2量体を形成しやすい。狭いチャンネル内にとり込まれるため、2量体を形成する分子同士の相互作用は極めて強い。また、電荷補償陽イオンをK^+からNa^+に変えるとゲスト分子によって2量体の構造変化を起こす場合と2量体形成を抑える場合があることがわかった。チャンネル構造による分子の分布状態や分子間配向への強い規制および陽イオンによるその制御の可能性を示した。
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