1.ゼオライト細孔ネットワークにおける分子拡散の探求 光化学的手法を応用して、ダイヤモンド格子構造のフォージャサイト型結晶の細孔ネットワークにおける芳香族ゲスト分子の拡散速度を求め、拡散係数を決定する方法を考案した。すなわち、ゼオライトに吸着された芳香族分子の3重項から別のゲスト分子への3重項-3重項エネルギー移動による消光を時間分解拡散反射分光法により観測した。そして、3重項ゲスト分子の消光動力学に関するランダム・ウォークモデルを用いて解析し、拡散係数を得た。NMR、MDなどの方法によりベンゼンのような簡単な分子の拡散係数のデータは既にあるが、その値にはかなりバラツキがある。また、ベンゼンより大きな分子の拡散係数のデータはほとんどないため、本方法により多くの分子について拡散係数を求めることには意義がある。 2.共吸着溶媒の分子拡散への影響 NaYゼオライトに吸着したアントラセン3重項の減衰速度が共吸着溶媒の種類と量によって著しく影響を受けることがわかった。特に水では0.08ml/gのあたりで減衰定数が3桁以上大きくなった。この結果はアントラセンの細孔内および細孔間移動の速度が共吸着溶媒の種類と量によって著しく影響されると考えることによって説明された。 3.ゼオライト吸着系における電荷移動錯体の形成とその性質 電子供与性と電子受容性の2種類の芳香族分子をY型ゼオライトに同時に吸着させることにより電荷移動錯体(CT錯体)が形成されることがわかった。そして、電荷補償イオンを交換してゼオライトの電子供与性の程度を変化させた場合、ゼオライトの電子供与性が高いほどCT吸収ピークエネルギーが大きくなることを見出した。このことは特定のCT錯体の吸収ピーク位置を用いてゼオライトの電子供与性を評価できる可能性を示す。また、NaYゼオライトの細孔に形成されたCT錯体を光励起することによって生成する励起状態の電荷再結合反応(CR)による減衰速度をフェムト秒拡散反射レーザーフォトリシスにより調べたところ、脱水ゼオライト中では溶液系に比べて著しく遅くなること、水和ゼオライト中ては再び減衰が速くなることを見出し、脱水ゼオライト中ではCT錯体の励起状態のおける配向緩和が著しく阻害されることを予測した。
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