近年、地球環境研究において、指標となる分子中の同位体比に関する議論が盛んである。同位体比から物質の起源を同定したり年代を決定する手法は地球化学において伝統的なものであったが、地球環境研究ではそれに加えて種々の元素の循環機構(いわゆる炭素、硫黄、窒素などの循環)を明らかにするために同位体比測定が行われている。循環機構における同位体濃縮には生物活動による取込や放出によるものや土壌や水(海)中における物質の分解や蒸発による濃縮などに加えて、大気中での化学反応(光化学反応やラジカル反応)における反応速度の同位体間の差異の評価が重要視されている。以上の背景を受けて本研究は気相ラジカル反応における安定同位体間の微小な反応速度の差異をラジカルを直接検出する直接法で精密測定し、上記の問題解決に貢献しようとするもので、以下の研究がなされた。 (1)メチルラジカルとO(^3P)およびO_2の反応速度の同位体効果。 ^<12>CH_3と^<13>CH_3、CD_3の三種メチルラジカルと酸素原子および酸素分子の反応速度の差異を光イオン化質量分析計を用いて測定した。三体反応であるO_2との反応速度においてCD_3がCH_3の2.4倍、^<13>CH_3が^<12>CH_3より0.5%速い反応であることが決定された。 (2)CH_2CFOとCD_2CFOラジカルのレーザー誘起ケイ光スペクトル CH_2CFOラジカルは酸素原子とフッ化エチレンの反応で直接生成するラジカルである。このラジカルのLIFスペクトルに関してはFCOラジカルのスペクトルであるとの説が米国の研究グループから発表されていた。本研究においてはCH_2CFOとCD_2CFOのLIFを測定し、そのスペクトルの同位体効果を解析することにより、このスペクトルが決してFCOに帰属されるものではないことを証明した。 (3)メチル置換型ビノキシラジカルとO_2との反応速度の測定 酸素原子とオレフィンの反応で生成する1-メチル及び2-メチルビノキシラジカルとO_2との反応速度を測定した。どちらの反応も圧力依存性を示し、この反応が三体再結合反応であることを示した。
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