研究概要 |
本年度は,ジアリール置換テトラメチレンェタン(TME)型中間体の発生と反応性の検討を目的とし,以下の3系について検討を行った. 系(1):1,4ジフェニル-5,6-ジメチレン-2,3-ジアザビシクロ[2.2.2]オクト-2-エン(1) 基質(1)は9段階,収率8%で合成した.基質(1)の熱,直接光照射や光増感電子移動反応では脱窒素生成物が定量的に生成し,効率の良い1,4-ジフェニル置換型TMEビラジカル(2)の発生を確認した.また,いずれの場合もN-メチルマレイミド共存下では,2種の付加体(3,4)が生成した.反応機構の考察から,これらは2の捕捉体である.さらに本研究では2の付加反応における位置選択性の検討を行った.現在,光増感電子移動反応に的を絞り,2及びその前駆体のカチオンラジカル(2^<・+>)のレーザー分光法等による直接確認を行っている.また,関連誘導体の合成やその理論計算によるアプローチ等さらなる検討を今後予定している. 系(2):1-メチレン-4,4-ジアニシルスピロペンタン(5) 基質(4)は,8段階,収率0.4%で合成した.光増感電子移動反応を検討した結果,1,1-ジアリール置換型TME型カチオンラジカルを発生せずに,新規な転位反応を起こすことが判明した. 系(3):1,2-ジメチレン-3,3-ジフェニルシクロブタン(6) 基質(5)は,3段階,収率15%で合成した.光増感電子移動反応を検討した結果,1,1-ジフェニル置換型TMEカチオンラジカルを発生せずに,5と増感剤との付加体(7),および5の二量体(8)を与えた.7,8はいずれも特異な8員環構造を有する.本研究では,5^<・+>の特異な反応性について実験結果及び分子軌道計算等をもとに考察した. 以上のようにTMEの発生とその反応性の検討に成功したのは1系のみであるが,他の二つの系では予期できない新規反応を見出すことができた.
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