研究概要 |
遷移金属錯体を用いる有機反応の開発は,現代有機化学の分野で最も活発に行われている研究分野の一つである。この主な理由としては,極めて高い立体選択性を獲得しえる可能性を秘めていることが拳げられる。 著者はこれまで,その環上に多くの不斉中心が存在しているアルカロイドやプロスタノイド等のヘテロ脂環式生物活性物質の合成を行ってきたが,今回これらアルカロイドの高立体選択的な合成法の開発を目的として,遷移金属錯体を用いるオレフィンへのヘテロ原子の分子内環化付加反応の検討と天然物合成への応用を行った。 まず,遷移金属錯体を用いる分子内付加環化反応を行うにあたって,基質として分子内にオレフィン部とウレタン部を有し,環化生成物が天然物の合成素子と成り得る基質を数種類設計した。ついで,これらの基質を,S-glycidolやD-mannitolを出発原料として,又アリルアルコール体の香月・-Sharpless不斉酸化を経由して合成した。これらの光学活性な基質の分子内環化反応をパラジウム(II)触媒を用いて行ったところ,2,6-trans-ピペリジン体,2,4-trans-ピペリジン体及び2,5-cis-ピペリジン体を各々高立体選択的に得ることが出来た。本反応は,(1)極めて高い立体選択性を示すこと,(2)室温で反応が進行すること,(3)基質のアリルアルコール部を活性化する必要がないこと及び(4)塩基や再酸化剤等の他の試薬を添加する必要がない事等,極めて実用性に富んでいる。さらに著者は,得られた環化生成物から,(+)-prosopinine,(-)-SS20846A,(+)-deoxymannojirimycin等の生物活性天然物への変換も行った。 これらの成果に関しては学会の講演会を通じて発表して来た。また現在これらの成果を論文にまとめ投稿中である。
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