研究概要 |
1. シス-1,12-ジメトキシ[12]パラシクロファンについて、その環プロトン波形を90MHz、Tc付近(133゚C)において約4000気圧まで追跡測定した。各圧力における波形をAA′BB′の4-スピン系としてQCPE-DNMR5プログラムにより解析し、ベンゼン環の回転速度を求めた。解析に必要な各圧力での化学シフト差はNMRタイムスケール上、環の回転をほぼ止めてみることの出来る400MHz高圧NMRの測定波形から決定した。加圧によって回転速度は増加することが確認できた(先に発表した2-スピン系としての近似計算の結果とほぼ一致)。この現象は負の活性化体積により説明される。なお、高圧になるにしたがい、回転速度の増加率は減少する事が明らかになった。 400MHz高圧NMR測定によりメチレンブリッジ頂上のメチレンプロトンの高磁場圧力シフトが顕著であることが分かった。化学シフトに対する圧力効果への寄与因子は複雑で、詳しい解析は来年度の課題としたいが、定性的には加圧によってメチレンブリッジがわずかに縮小して頂上メチレンプロトンがベンゼン環に接近したため、環電流効果が増大したものと考えられる。上述の高圧領域における回転速度増加率の減少は、ブリッジの縮小によってシクロファン分子の内部ポテンシャルが変化し回転の圧力加速が阻害されたと考えることもできる。 2. 高圧NMR装置の改良開発もおこなったが、当初立案していた増圧機・セパレータアセンブリを用いる方法よりもセパレータ自体を設計変更して装置に組み込む方法が優れていることを見い出した。そこで増圧機・セパレータの購入はとりやめ、セパレータに特殊工作を施して使用した。上述したように90MHz、400MHzにおいて約4000気圧までの高圧実験をルーティン的に実施することが可能となった。なお装置の性能テストも兼ねて、蛋白質を測定試料とした750MHz、2000気圧までの実験を行い(赤坂教授との共同研究)、種々の重要な知見を得ている。
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