研究概要 |
(1)先年はシス-1,12-ジメトキシ[12]パラシクロファンの環プロトンのNMRシグナルを3900気圧まで追跡測定し、加圧によってこの分子のベンゼン環回転速度が増加することを明らかにした。この現象は回転の遷移状態の体積が原系の体積よりも小さいと言う、いわゆる負の活性化体積により説明される。なお、高圧になるに従い、回転速度の増加率は減少することも見いだした。これらの知見をふまえて、本年度はこの分子のメチレンループ内のプロトン化学シフトを4500気圧付近まで追跡測定した。その結果、ループの頂上にあるプロトンが4500気圧の加圧により0.05〜0.1ppm高磁場にシフトする事がわかった。ベンゼン環による反磁性磁気異方性効果を想定すると、メチレンループが圧力変形して少し押しつぶされ、ベンゼン環面に0.1〜0.5Å接近したと見積もることができる。上述の高圧領域における回転速度増加率の減少はループ縮小によってシクロファン分子の内部ポテンシャルが変化し、回転の圧力加速が阻害されたためであろう。 (2)これと並行して、合成石英セルを用いる高圧NMR装置の改良開発にも力を入れてきたが、現在のところ6500気圧までの耐圧性能を有するNMRセルの試作に成功している。装置の性能テストも兼ねて、蛋白質を測定試料とした750MHz、3700気圧までの実験(赤坂教授との共同研究)をおこない、分子生物学上のきわめて重要な知見を得つつある。
|