研究概要 |
平成10年度の研究では,おもに非経験的分子軌道法と密度汎関数法との間の,計算された配座エネルギーと振動波数の精度について詳しく検討した。具体的には,次の2つのテーマで行い,以下のような成果が得られた。 1. 気相中での1,2-ジメトキシエタンの密度汎関数法によるコンホメーション解析 今回,気相中での1,2-ジメトキシエタンの赤外スペクトルを測定することにより,初めてTTT形とTGT形の間の配座エネルギー差が得られその差はほとんど0kcal/molであることがわかった。また,CH...O相互作用により安定化するTGG′形とTTT形との配座エネルギー差も以前我々が得た結果を再現し,その値の信頼性を高める結果となった。非経験的分子軌道法はHartree-Fock法とMP2法を用い,密度汎関数法では,B3LYP法を用い,基底関数系の規模を変えながら,計算された配座エネルギーの精度を検討した。その結果,TTT形とTGT形の間の配座エネルギー差は電子相関を考慮し,基底関数系の規模を大きくするほど小さくなり,大規模な基底関数系を用いたB3LYP法による計算結果が,もっとも実測の結果を再現することがわかった。 2. 高周期典型元素を含む有機化合物の密度汎関数法によるコンホメーション解析 高周期典型元素を含む有機化合物は狭い空間領域に高密度の電子が存在するために,理論計算での取り扱いにおいて電子相関を無視するわけにはいかない。しかし,分子軌道法での電子相関の取り扱いでは,計算時間とメモリの制約により現実的には精密な計算はできない。本研究では,原子やSe原子を含む有機化合物について密度汎関数法による計算を行った。S原子を含む分子として,N-メチルチオ尿素の振動計算の精度をいくつかの理論計算の手法で比較した。その結果,Beckeの3タイプの密度汎関数法が最もよい結果を与えた。
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