本研究は水酸基やカルボキシル基の保護を必要としない、基質や溶媒の脱水操作を必要としない真に実践的合成プロセスを開発することを目的として行った。平成11年度においては次の結果が得られた。 1.カルボキシル基の保護を必要としない、即ち保護・脱保護を必要としないカルボニル化合物のアリル化反応 三塩化ビスマス-亜鉛存在化、ほぼ1当量の臭化アリルをカルボキシル基やカルボン酸のリチウム塩を含むアルデヒドやケトンと反応させると収率良く対応するホモアリリックアルコールやラクトンが得られることを見い出した。一般に、有機金属試薬はカルボキシル基と容易に反応するため、まずカルボキシル基を保護した後、必要な有機金属試薬を用いて望む反応を達成しなければならない。すなわち保護・脱保護の煩雑な過程が必要となるが、筆者らが見い出した反応はこの煩雑な保護・脱保護の過程を省略できることになる。 2.金属ビスマス存在下、臭化アリルを用いる無保護糖のアリル化反応 ジメチルホルムアミド中、金属ビスマス存在下、無保護の糖と臭化アリルを反応させたところ、糖のアリル化反応が円滑に進行することを見い出した。しかもいずれの場合も比較的良好な立体選択性でsyn体が主生成物として得られた。 以上のように、水酸基やカルボキシル基を保護することなく有機金属試薬を用いて炭素-炭素結合生成反応を達成することは、有機合成の簡便さと言う点から重要である。
|