研究概要 |
チタノセンジチオレン錯体を塩化スルフリルで酸化することにより1,2-ジチエット,1,2,5,6-テトラチオシンおよび環状四量体(16員環)を得ることができた。ジチエットおよびテトラチオシンの結晶構造はX線結晶構造解析によって明らかにし,ジチエットの4員環は平面構造をしており,またテトラチオシンは結晶状態でツイスト構造をとっていることがわかった。テトラチオシンのツイスト構造は分子軌道計算によって求めた最安定構造と一致している。テトラチオシンおよび16員環化合物はベンゼンおよびクロロホルム中室温で安定であったが,ジチエットはベンゼンおよびクロロホルム中で環拡大し,テトラチオシンおよび16員環化合物を与えた。一方,アセトニトリル中ではテトラチオシンおよび16員環化合物も反応し,それぞれジチエットおよび16員環化合物,ジチエットおよびテトラチオシンを与えた。この反応は可逆であり,アセトニトリルのような極性溶媒中ではジチエット,テトラチオシンおよび16員環化合物の間に平衡があることがわかった。ジチエット,テトラチオシンおよび16員環化合物の生成比は,いずれの場合も16員環化合物が最も多く,これは16員環構造が8員環および4員環構造に比べ環歪みが最も少ないからであることが,分子軌道計算によって明らかとなり,どの反応の場合にもZ,Z,Z-12員環化合物が得られないのは,Z,Z,Z-12員環構造の環歪みによるためであることがわかった。このような環変換反応が起こるのは硫黄一硫黄結合の弱い結合エネルギーによるためと考えられる。また最近セレン類似体の合成にも成功しており,今後これらの物性を明らかにすると共に第5周期のテルル化合物の合成も行なう予定である。
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