研究概要 |
本年度の「立体因子で制御される不斉なフォトクロミズム系の構築」に関する成果は,以下の通りである. 1.ビスチエニルフルギドのジアステレオ選択的フォトクロミック環化反応 ビスチエニルフルギドは,熱不可逆なフォトクロミズムを示すフルキドの一種である.この化合物は二つの二重結合に関してE,E体,E,Z体,Z,Z体の3つの異性体があり,E,E体,E,Z体は紫外光照射により環化し,二種類の着色体を生成する.これら5成分からなるフォトクロミック系の光反応を解析することによりE,Eの二重結合異性体から生成する環化着色体が優勢に生成する(90%de)ことが判った.また,ビスチエニルフルギドがジアステレオ選択的フォトクロミズムを示すのは,電子的な理由でなく,立体的要因によることをAM1分子軌道計算により明らかにした。 2.熱可逆性フォトクロミック化合物ベンゾチエニルフルギド誘導体の光反応と熱反応 アダマンチリデン基を有し,芳香環の光環化する炭素原子上の置換基が水素原子であるフルギドは,光環化後,1,5-水素転位により熱可逆性フォトクロミズムを示すR-formになり,太陽光下で着色し,暗所で消色する.このような反応を示す4種のヘリオクロミックベンゾチエニルフルギド誘導体を合成し,光反応および熱反応の系統的研究を行った.合成した4種誘導体の閉環消色反応の熱消色速度定数および活性化エネルキーを測定し,AM1分子軌道計算で得たO-formの安定配座との関係を明らかにした.
|