研究概要 |
本研究の成果は、全く新規で複雑な構造を有し、興味ある生理活性を示す天然物抗生物質の全合成を初めて成し遂げたことである。ここで得られた多くの知見は、同種類の抗生物質の全合成にも利用、応用できることから大いに評価できる。ここで言う天然物とは、ピリジン骨格を中心に2,3,6-および2,3,5,6-位にチアゾールやオキサゾール、ポリデヒドロアミノ酸などが結合して大環状化したチオペプチド系大環状抗生物質群である。 いままでに、合成目的のミクロコッシンP、P_1、P_2、GE2270Aおよびノシヘプチドなどがよく知られており、現在、さらに多数単離、構造決定されている。これらの天然物を合成するのに、いくつかのフラグメントに分け、それらを安価なL-α-アミノ酸やα,β-不飽和α-アミノ酸(α-デヒドロアミノ酸)を出発原料とした。すなわち構成要素であるピリジン骨格、多種類のチアゾール、オキサゾール骨格、それらを結合したデヒドロペプチドなどをα-アミノ酸から新規に合成した。さらに、それらを縮合して各フラグメントを合成し、最終環化、脱保護条件の検討を行い有用な結果を得ることができた。 以上の結果から、各フラグメントの合成法を新規に開発しただけでなく、各工程で得られた部分骨格が医農薬へのリード化合物として大いに利用される可能性が出てきている。これまでの知見より、目的のミクロコッシンPおよびP_1の全合成に成功した。さらに、GE2270Aの全合成研究にも有用な成果が得られた。以上のように、極めて複雑な構造である目的のチオペプチド抗生物質の全合成を完成させたということ、さらに一般化まで視野にいれた合成法を開発したことはこの分野に多くの寄与をもたらしたものと確信している。
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