電気化学活性基としてテトラチアフルバレン(TTF)を用い、分子内に4個のチオール基を有するテトラチアフルバレン誘導体を合成し、多点吸着による自己集合単分子膜および積層膜の形成について検討した。多点吸着による自己集合単分子膜の形成は、テトラチオールのジクロロメタン溶液に金電極を浸漬して行った。自己集合単分子膜の性質については、電気化学的手法により解析した。その結果、ジクロロメタン中におけるTTF-単分子膜修飾金電極のサイクリックポルタモグラムからは、TTF骨格に基ずく段階的な2電子移動のピークが観測され、単分子膜修飾電極に特有の波形を示した。更に、繰り返し測定を行っても、そのサイクリックボルタモグラムには、ほとんど変化が見られず、テトラチオ一ルが金表面上に修飾されていることが明かとなった。一方、作用電極としてグラッシーカーボン電極を用い、テトラチオールの多重掃引を行ったところ、TTF骨格に基ずく酸化還元電流値が増加し、積層膜の生成が確認された。一般に、積層膜はチオフェンやピロールの陽極酸化より得られるため、酸化還元活性基とチオフェンやピロールの酸化還元波が重なり、積層膜の電気化学的性質を調べるのに制限がある。しかし、本研究で見いだしたテトラチオールから生成する積層膜には、酸化還元活性基の酸化還元波しか現れず電気化学的挙動を調べるうえで大きな利点となる。このような積層膜はモノチオールからは全く生成せず、テトラチオールにのみ見られる現象である。
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