研究概要 |
フェロセンは可逆な1電子酸化還元を受けるのに対して、ルテノセンは+0.6V付近に不可逆な2電子酸化波を示す。一方、1,2-ビス(ルテノセニル)エチレン誘導体は、大きく低電位シフトした不可逆な2電子酸化波を示し、それを反映して2電子化学酸化において新規な構造異性化を伴い(μ-η^6:η^6ペンタフルバジエン)ジルテニウム錯体を与えた。これは、2つのルテニウムサイト間での強い金属-金属相互作用の結果と考えられるので、Ru(II)ルテノセニルアセチリド錯体の2電子錯体においても同様の相互作用が起これば、累積多重結合を含む新規な不飽和配位子を持つ錯体の合成が可能になる。そこで、1-ホルミル-2,3,4,5-テトラメチルルテノセンとトリメチルシリルジアゾメタンとの反応を用いて、新たに2,3,4,5-テトラメチルルテノセニルアセチレンを合成するルートを開発し、各種のRu(II)2,3,4,5-テトラメチルルテノセニルアセチリド錯体を合成し、その電気化学的性質を検討した。その結果、それらの錯体は2つの擬可逆的な酸化還元波を示し、第一還元波、第二還元波とも大きな低電位シフトを示し2つの金属間での相互作用を示唆した。 これを反映して2電子化学酸化においては、3つの誘導体において安定な2電子酸化体を単離することができた。その構造は、^<13>CNMRスペクトルおよび単結晶X線構造解析により、[η^6:η^1-(シクロペンタジエニリデン)エチリデン]配位子を有する珍しい錯体と判明した(Organometallics,投稿中)。 二重結合の代わりにベンゼンやチオフェン等の芳香族化合物を架橋配位子とする2核ルテノセン錯体の電気化学的挙動や酸化反応に興味が持たれる。そこで、これらの錯体を合成する出発物質として、新たに2-ルテノセニル-1,3,2-ジオキサボロランを合成した。この化合物についてパラジウム触媒を用いてジハロベンゼンとのクロスカップリングを行うと、高収率で目的とする1,4-および1,2-ビス(ルテノセニル)ベンゼンを得ることができた。これらの錯体における2つのルテニウム金属間での相互作用は小さいことが電気化学的測定から明らかになった(日本化学会第76春季年会発表予定)。
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