研究概要 |
単核のルテノセンは不可逆な2電子酸化を受けるのに対して、2核ルテノセン誘導体にはEECタイプの2電子酸化還元を受けるものがあり、その2電子酸化反応では安定な2電子酸化体が単離できることをこれまでに報告してきた。最針の研究結果として、この2電子酸化体には、Ru^<II>-Ru^<II><->Ru^<III>-Ru^<III><->Ru^<II>-Ru^<IV>の限界構造の共鳴が存在し、その分子がどのような構造を有するか、例えばどのような架橋配位子で結ばれているか、によってそのいずれかの限界構造から反応が起こることが明らかになってきた。例えば、先にその合成報告した(μ-η^6:η^6-ペンタフルバジエン)ジルテニウム錯体は、ニトリル類を反応させるとRu^<II>-Ru^<IV>の混合原子価錯体を与えた。また、臭素との反応ではRu^<II>-Ru^<IV>状態から反応したと考えられるRu^<IV>-Ru^<IV>錯体を与えた。また、チオフェン架橋の2核ルテノセン誘導体では、Ru^<II>-Ru^<II>錯体を安定に単離することはできなかったが、ニトリルとの反応では安定なRu^<II>-Ru^<IV>錯体を単離できた(日本化学会第78春季年会、2000)。また、チエノ[3,2-b]チオフェン架橋2核ルテノセン誘導体では、Ru^<II>-Ru^<II>錯体を安定に単離することができ、スペクトル的に構造決定できた。それをアセトニトリルに溶かすと、Ru^<IV>-Ru^<IV>錯体を与えた(第50回錯体化学討論会、2000)。 不飽和化合物で架橋した2核ルテノセン誘導体との関連で、ホモアンニュラーに架橋した2核ルテノセン誘導体の性質に興味を持ち、その合成を検討した。その結果、インダセン-4,8-ジオンを架橋配位子とする2核ルテノセン誘導体の合成に成功した。この化合物のプロトン化では、これまでにあまり報告のない2つのカルボニル基がプロトン化し、正電荷が酸素原子上に局在化したジカチオン錯体を単離し、その構造・性質を明らかにすることができた。インダセン-4,8-ジオン配位子が平面構造を強いられるため、ルテノセニル-α-カルボニウムイオンがフルベン型錯体への移行できないためと考えている(日本化学会第78春季年会、2000)。
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