研究概要 |
金属イオンの特質は,その多様な立体化学,幅広い酸化還元能およびルイス酸性度にある。本研究では二核金属錯体における二つの金属イオンのこれら特性を,配位環境の立体的・電子的効果により自由自在に制御することを目的とし,下記の課題について研究を行った。1)二核鉄パーオキソ錯体の酸素親和性の制御,2)酸化・酸素化能を有する二核金属錯体(Fe,Ni,Cu)の設計・開発,3)加水分解能を有する非対称二核金属錯体の設計・開発。 課題1)一連の二核鉄およびコバルト二価錯体の酸素親和性を測定し,酸素化反応の熱力学的パラメータを求めた。その結果素親和性の制御には,エントロピー効果が重要な役割を果たしていることを見出し,二核化配位子の立体化学によって,エントロピー効果をかなりの程度制御できることがわかった。 課題2)二核鉄錯体による酸素分子の活性化では,メタンモノオキシゲナーゼの反応中間体モデルとして提案されている(μ-hydroxo)(μ-peroxo)および(μ-oxo)(μ-peroxo)Fe_2(III,III)錯体の合成および構造解析に初めて成功した。また銅錯体では,高原子価bis(μ-oxo)Cu_2(III,III)錯体を合成・単離し,その結晶構造を明らかにした。このbis(μ-oxo)Cu_2(III)錯体は,配位子の水酸化を経て酸化的N-脱アルキル化をすることがわかった。またトリフェニルフォスフィンとの反応により,酸素-酸素結合を生成して酸素分子を再生することをも見出した。 課題3)Purple acid phosphatase等のモデル二核鉄(II,III)混合原子価錯体および異種金属二核亜鉛(II)鉄(III)錯体を得るための非対称的二核化配位子を開発し,二核鉄(II,III)混合原子価錯体および異種金属二核亜鉛(II)鉄(III)錯体の選択的合成を可能とした。
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