研究概要 |
本年度予定していた研究計画については概ね順調に実施することができ,良好な研究成果が得られたと考えている。まず,フォトクロミズムを示す錯体として,イオウおよびリンを配位原子に含む多座シッフ塩基-ルテニウム(II)錯体を各種合成することができた。これらの錯体についてX線結晶構造解析を行い,構造の帰属を行った。このうち,2-(t-ブチルチオ)ベンズアルデヒドあるいは2-(ジフェニルホスフィノ)ベンズアルデヒドと各種アミノアルコールから誘導した3座のシッフ塩基配位子を含むルテニウム(II)錯体は.アセトニトリル中,暗所では黄色,光照射下ではオレンジ色を可逆的に呈し,フォトクトミズムが認められた。この反応をNMR,可視紫外吸収スペクトルの測定により追跡し,ルテニウム(II)上でCl^-とアセトニトリルが光と熱によって競争的に配位と解離を繰り返すためフォトクロミズムが示されることを明かにした。また,これらの光と熱による反応で生成した錯体を溶液中から単離し,構造の決定を行うことができた。なお,この光反応は太陽光下では進行したが,蛍光灯下では全く進行せず,反応に波長依存性のあることがわかった。そこで,キセノンランプを光源に用い,バンドパスフィルターで錯体がCT吸収帯を示す500nmの単色光を取りだして錯体のアセトニトリル溶液に照射したところ,光反応が認められた。次年度は,種々の波長の光に対する反応性をより詳細に検討したいと考えている。また,この光反応にともなって,錯体の電荷が0価→1価→2価と変化するため光照射のon-offにともなって溶液の導電率が変化すると予想され,これを確認したいと思う。さらに,この光反応にともなう錯体の酸化還元電位の変化を調べ,光のon-offと連動して電子移動反応が起こる系を構築したいと考えている。
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