研究概要 |
これまで、金属錯体の光化学的性質については、ポルフィリン錯体やビピリジン、フェナントロリン錯体など比較的限られた系で研究が行われてきた。本研究では、イオウやリンを配位原子とする多座シッフ塩基を配位子に用いて従来とは全く異なる系を開拓し、その光反応性を検討することができた。 まず、フォトクロミズムを示す錯体として、2-(t-ブチルチオ)ベンズアルデヒドあるいは2-(ジフェニルホスフィノ)ベンズアルデヒドと各種アミノアルコールから誘導した3座のシッフ塩基配位子を含むルテニウム(II)錯体を合成した。この錯体は、アセトニトリツ中、暗所では黄色、光照射下ではオレンジ色を可逆的に呈し、フォトクトミズムが認められた。この反応をNMR、可視紫外吸収スペクトルの測定により追跡し、ルテニウム(II)上でC1^-とアセトニトリルが光と熱によって競争的に配位と解離を繰り返すことを明らかにした。さらに、これらの光と熱による反応で生成した錯体を溶液中から単離し、構造決定を行うことができた。また、各種ジアミンを用いて誘導した4座のシッフ塩基-ルテニウム(II)錯体についても、同様な光置換反応を観測した。次に、2-t-ブチルチオベンズアルデヒドまたは2-ジフェニルホスフィノベンズアルデヒドと、2,2-チオビスエチルアミンあるいは3,3-チオビスエチルアミンから誘導した5座配位子を含むルテニウム(II)錯体を合成した。これらの錯体にはいずれも複数の異性体の存在が予想され、単離された錯体の構造が配位子によって異なることをX線構造解析により明かにした。2-アミノ-5-チアヘキシルアミンと2-t-ブチルチオベンズアルデヒドから誘導した5座配位子を含むルテニウム(II)錯体の系については、配位子末端の非配位のスルフィドが、光照射によりC1^-と置換して配位することを見いだし、生成した錯体の単離と構造決定を行うことができた。
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