研究概要 |
中心金属の電子配置に及ぼすポルフィリン環の非平面化の影響を明らかにするため、今年度は昨年度から続いているFe(III)イオンの他にMn(III)イオンについても検討を始めた。ポルフィリン環がS_4-ラッフル変形するとFe(III)の電子配置は通常の(d_<xy>)^2(d_<xz>,d_<yz>)^3から異常な(d_<xz>,d_<yz>)^4(d_<xy>)^1に変化した。それに対して、S_4-サドル変形しても通常の(d_<xy>)^2(d_<xz>,d_<yz>)^3配置が保持された。従って、電子配置の変換にはラッフル変形が重要であることが明らかになった。次に同様の現象がMn(III)錯体にについても観測されるかどうかを明らかにするため、ラッフル変形した(テトライソプロピルポルフィリン)Mn(III)のビス(シアニド)錯体について検討した。ポルフィリン環の変形によりFe(III)と同様にd_<xy2>軌道のエネルギー準位がd_<xz>,d_<yz>軌道よりも高くなれば、通常では高スピンS=2のMn(III)イオンが反磁性を示すことも予想される。ところがビス(シアニド)錯体の^1HNMRスペクトルを測定すると、高磁場領域にピロールシグナルが観測されたことから、この錯体におけるMn(III)イオンは依然として不対電子をd_<xz>,d_<yz>軌道に有していることが判明した。今後、meso-位により嵩高いアルキル基を導入し、ポルフィリン環を一層ラッフル変形させた錯体について検討を行う。また、meso-位にイソプロピル基より小さなメチル基を導入した錯体についても検討し電子配置と非平面性との間連を明らかにする。
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