研究概要 |
低スピン鉄(III)ポルフィリン錯体では、ポルフィリン環がラッフル型に変形すると、鉄の電子配置が通常の(d_<xy>)^2(d_<xz>,d_<yz>)^3から(d_<xz>,d_<yz>)^4(d_<xy>)^1に変化する。このような電子配置の変化はラッフル化に伴いポルフィリンのa_<2u>軌道と鉄(III)のd_<xy>軌道との相互作用が強まること、およびポルフィリンの3e_g軌道と鉄のd_π(d_<xz>およびd_<yz>)軌道の相互作用が弱まることによって引き起こされる。そこで、大きくラッフル変形した(meso-イソプロピルポルフィリン)マンガン(III)クロリドに^nBu_4CNを加えて得られる低スピン-ビスシアノ錯体について電子配置の決定を試みた。ところが過剰の^nBu_4CNを加えてもビスシアノ錯体だけでなくモノシアノ錯体も共存することが明らかになった。また、モノ体とビス体との比率は溶媒により大きく変化し、クロロホルムの場合にはモノ体のみが、またジクロロメタンではモノ体とビス体が、非プロトン性極性溶媒や非極性溶媒中ではビス体のみが生成するという興味深い現象を見いだした。この原因として、クロロホルム中では溶媒と配位したシアニドとの間にC-H...π型の水素結合が存在し、シアニド配位子の配位力を弱め、そのためモノ付加体を安定化していると考えている。現在、この溶媒効果の解明とビス付加体の電子配置の決定に関する研究を続行している。
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