本研究は、微小な単結晶の強磁場下分光測定が可能なシステムを製作し、それを用いて分子性伝導体の強磁場下の遠赤外〜近赤外反射スペクトルを、測定するというものである。本年度においては、分光測定システムのテスト、および試料ホルダーの設計を行った。以下その結果を記す。 i) 本システムにおいて最も重要な点は、充分な光強度を稼ぎ、なおかつ高感度の検出器を用いるという点である。その観点から、飽和しない範囲で検出器(ボロメーター)がもっとも高感度になるように、低温フィルターおよびアパーチャーの再調整を行った。 ii) クライオスタントに挿入する試料測定用のホルダーに関しては、当初、外部からステッピングモーターを用いて、機械的に動かす方式を検討していたが、装置が大掛かりになるため、一部ピエゾアクチュエーターを用いることに変更し、現在外部に発注している。試料ホルダーが完成した後に、測定システム全体のテストを行う予定である。 また、今年度はこれらの装置の設計、テストと並行して、次ページ論文リストに記したような研究成果を得ている。中でも、(DMe-DCNQI)_2Li_<1-X>、Cu_Xに関する成果は特筆すべきものであり、これにより一次元系分子性導体では、電子相関による光学ギャップと、ドメイン壁の運動による電気伝導が、共存することが、実験的な見地からはじめて明らかになった。この系の研究をさらに進めるためには、遠赤外領域の分光測定が欠かせないため、本システムの完成を待って、測定を行う予定である。
|