1.BEDO-TIF(BO)分子とステアリン酸を用いて、室温下で約100S/cmに達する直流電気伝導度を示す金属LB膜の作製に成功した。この分子システムでは水面上で上が脂肪酸層、下がBO分子層からなる2重層膜を自発的に形成して(BO)_2^+(RCOO-H..OOCR)^<-1>と書ける特異な電荷移動錯体を形成する。このことが従来の導電性LB膜が持っていた製法上の問題点、ドナー分子や電子受容体へのアルキル鎖の付加や、脂肪酸の添加を不要にした。 2.作製したBO分子とステアリン酸のLB膜は低温100K以下で弱いIn(T)の電気抵抗温度依存性を示す。われわれは低温下1.8Kに至る横磁気抵抗の精密な測定を行った。その結果、横磁気抵抗が、負の磁気抵抗(磁場の印加とともに電気抵抗が低下する)を示すことを発見した。これらは、弱い電子局在下の2次元電子系特有の現象であると考えて、氷上らによって発展させられた2次元電子系における弱い局在の磁気伝導の理論によって定量的解析をおこなった。結果として、キャリアの後方散乱による量子干渉効果を明らかにしたばかりか、シート抵抗、局在するキャリアのコヒーレントな拡散長を得た。これは導電性LB膜が2次元的な導電層・電子構造と電荷移動を示す直接的証拠を初めて与えるものである。 3.直流電気抵抗は低温でみかけは上昇して超伝導には至らないものの、グラファイト(黒鉛)や半導体格子における2次元電子系において観測されるのと全く同様に、有機薄膜であるLB膜においても、電子の波動性を本質とする量子干渉効果である弱い局在現象が観測されたという事実は、きわめて意義深い。
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