本研究では、分子集合体水溶液系における界面活性剤分子や可溶化物の分布状態について調べた。本年度は、キノリン系の蛍光プローブに注目し、その蛍光発光あるいは消光挙動を追跡した。疎水基鎖長の異なる界面活性剤や蛍光プローブを合成し、分子集合体のサイズや可溶化の影響を系統的に検討した。 さらに、分子集合体中の各分子間相互作用が原子団の相互作用の総和からなると捉え、分子集合体中の組成計算するプログラムをVisual Basicにより作成した。すなわち、界面活性剤の疎水基間の最近接相互作用を取り扱った格子モデルをミセル分子集合体に適用した。分子体積、分子面積や相互作用を各原子団の総和として捉え、混合ミセルの組成分布を計算するプログラムを組み、各成分間の相互作用による各成分の分布曲線への影響を調べた。 蛍光物質として一連のキノリン類をミセル系に適用し、界面活性剤ミセル系の蛍光消光挙動を観測した。キノリン類の蛍光は、塩化物イオンなどの対イオンとの分子衝突により消光され、ミセルヘ対イオン結合により消光が抑制されることを見出した。これにより対イオンの分布状態や膜透過などの知見が得られ、ベシクルやリポソームの二分子膜凝集状態に関する微視的な知見が期待される。今回の実験では、界面活性剤の親水基が嵩高く大きいほどミセルの対イオン結合度が小さいこと、また、フッ素系ミセルの対イオン結合度は、同じ親水基を有する炭化水素系ミセルと同程度であることなどがわかった。
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