初年度は、ミセル内でのスピンラベル剤の動的挙動に重点をおいて実験を進めた。まず、水溶性スピンラベルと炭素鎖の長い脂溶性スピンラベル剤をSDSミセル溶液に溶かし、回転相関時間(τ_R)を用い解析したところ、水溶性スピンラベルは脂溶性のそれより約10速ことが分かった。次に、スピンラベル剤を含むミセル溶液にアルコールを添加しミセルの形状を変えた。スピンプローブの分子運動への影響を調べて、水溶性スピンラベルに対する顕著な添加の効果が得られた。 次に、SOSミセルを用い同様の実験を行ったところ、水溶性プローブのτ_RはSDSの場合よりやや速かった。脂溶性では、SDSと同様な値が得られた。どちらのスピンプローブでもアルコール添加による大きな効果は見られなかった。従って、スピンプローブを溶質としたSDSとSOSミセル溶液へのアルコール添加の解析から、プロープのラジカル部位がミセルのどのような領域にあるか、また、ミセルの種類によっても、τ_Rが異なることを明確にできた。 これらの知見を基に、アルキル側鎖を持つキノンと持たないキノンについてSDSとSOS溶液での実験を行った。特に、光化学的に生ずるキノンラジカルのSDSミセル溶液での位置関係を検討した。側鎖を有するキノンが、アルコール添加によるミセルの形状変化と共に光化学的にラジカルに成り易いことを観測できた。 以上、ミセル溶液における水溶性・脂溶性スピンプローブの動的挙動とアルコール添加の効果を明らかにすることができた.さらに、これらの知見をキノンラジカル生成におけるミセル内での位置に関する実験に拡張することができた。これらの研究成果は、各種学会等で口頭発表したと共に、米国化学会の学術誌であるLangmuirに掲載された。
|