ミセル捕捉反応環境場で水和電子をクエンチする反応過程を把握する上で、まず第一に、水溶性と脂溶性スピンプローブを用い、鎖を有するキノンのミセル内での位置に関する研究を行った。ミセル溶液として、SDSとSOSを用いた。ミセル内での位置を考察するために、ミセルに1-プロパノールを添加しミセルの形状を変化させた。ミセルの形状変化でスピンプローブの挙動が変わるので、回転相関時間から詳細な動的挙動の変化を求めた。その結果を、鎖のあるキノンと鎖のないキノンに拡張して考察したところ、水和電子を捕捉するキノンはミセルの極性領域にあると結論づけられた。 次に、これらの実験結果をふまえターゲットとしてきた長鎖を持つキノンが、ミセル反応環境場で水和電子を捕捉する定量解析を行った。ミセル溶液にキノンの仕込み濃度を変え、クエンチされる水和電子の寿命を求めた。その結果、このキノンは擬一次反応で2.1x10^6sec^<-1>の速度でクエンチすることが分かった。従って、キノン/ミセル溶液系でキノンは、特異な抗酸化的機能を示すことが分かった。 さらに、この抗酸化機能を進展させる上で、新たな抗酸化性フェノールと新たな反応の媒体に関する二つの観点から実験を行った。一つは、最近注目されているフェノールであるセサモールで、この抗酸化過程で生ずる中間体ラジカルの反応性(或いは安定性)について検討した。その結果、セサモールの中間体は水溶液中で比較的安定(〜10μ秒)であると共に、セサモールから解離した水素ラジカルのセサモールへの付加をする特異な反応を見出すことができた。第二は、反応場を変えることによる反応の違いを知るために、ミセルからベシクルへの検討を行った。この基礎実験として、ベシクルを形成する硬化ひまし油(HCO-10)でスピンプローブを用い、水相とベシクル相における回転相関時間と電子スピン緩和時間に関して基礎データを得ることができた。 これらすべての研究成果は、国内における代表的な学会及び国際学会で発表したと共に、アメリカで開かれた代表的ないくつかの学会でも発表した。さらに、これらの研究成果は国内外の学術誌にも発表した。
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