従来の有機分子性金属を与えるドナー分子の設計では、ドナー分子が形成するカラム内の分子間π-π相互作用を妨げる様な嵩高い置換基の導入や、π-π相互作用に直接関与しないσ結合骨格ユニットによる化学修飾は避けられてきた。これに対し本研究では、ドナー分子にσ結合骨格ユニットとして、1.脂肪族ヘテロ環、2.環状アセタール、3.アルキル基を導入し、それらのドナーから得られる電荷移動物質がどの様な物性を示すかを明らかにすると共に、1〜3のσ結合骨格ユニットを利用して新物性を発現する物質の開発を目的とした。 1.脂肪族ヘテロ環が縮環したドナーに関する研究 ジオキサン環やジチアン環がシスで縮環したTTFドナーを合成するために、ルイス酸を用いる新たな反応を開発した。合成した新規TTFドナーの内、ジオキサン環を有するドナーからβタイプの構造を有する分子性金属が得られることを見出した。 2.環状アセタールを有するドナーに関する研究 1の研究過程で新規な転位反応を見出し、この反応を用いて五員環および六員環アセタールが付加した新規TTFドナーの合成に成功した。これらの内、五員環アセタールが分子平面に対し垂直に結合したドナーから二次元的な金属が得られることを見出し、分子平面に平行に結合した六員環アセタールを有するドナーから一次元的な金属が得られることを見出した。 3.アルキル基によって拡張されたドナーに関する研究 従来のTTFドナーにメチル基、エチル基を導入することにより、新たな分子性金属が得られることを見出した。また、安定な分子性金属を与える非TTFドナーの周辺部をメチレン基によって拡張したドナーから、新しい有機超伝導体を開発することに成功した。
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