研究概要 |
キラルな1,4-ジヒドロピリジン類はピペリジンアルカロイドなどの天然物合成に有用であり、その合成法の1つとしてピリジン環への不斉付加反応が知られている。従来の反応では、求核試薬と不斉補助基の配位を利用することにより面選択性を発現しているが、本研究では基質分子に軸不斉を発生させることでコンホメーションの固定化を行い、遠隔位の立体制御を行おうとするものである。 不斉補助基としてキラルなチアゾリジン-2-チオン基を有するニコチン酸アミドを合成し、そのビリジン環への1,4-不斉付加反応によりキラルな1,4-ジヒドロピリジンの合成を試みた。種々の求核試薬を用いて付加反応を行った結果、位置および立体選択的に1,4-付加体が得られた。得られたジヒドロピリジンの4位の絶対立体配置は、安定な結晶性化合物に誘導後、X線結晶解析によりS配置と決定した。 この付加反応の立体選択性の発現機構を明らかにするために、反応中間体であるピリジニウム塩の1H,13CNMRを測定、およびHF/3-21G^<(*)>計算による構造最適化を行った。その結果、HOMO-LUMO軌道相互作用によりラセン構造が安定化され、ピリジニウム環の4位の炭素原子とチオカルボニル基の硫黄原子との距離が近く、コンホメーションが固定化されていることが明らかになった。このような新しい分子内相互作用により、コンホメーションが固定化され、求核試薬が立体障害の小さい方から近づくことで立体選択性が生まれるものと考えられる。 以上のように本研究ではアミド基の軸不斉を利用することで立体選択的な付加を行うことができた。さらに、本研究において、ピリジニウム環の4位の炭素原子とチオカルボニル基の硫黄原子とHOMO-LUMO軌道相互作用によりラセン構造が安定化されていることを明らかにした。
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