研究概要 |
シグマトロピー反応および電子環状反応における反応点のジェミナル結合の関与を明らかにするため、1,5-ヘキサジエンのコープ転位および1,3-シクロヘキサジエンの開環反応の遷移状態の結合間相互作用を解析した。さらに、ジェミナル結合関与によりZ-とE-1-置換1,5-ヘキサジエンの相対的反応性および5-置換1,3-シクロヘキサジエンの回転選択性を予測した。 結合間相互作用の解析より、コープ転位の遷移状態においてジェミナル結合のうち、Z位のσC-H結合からもう一方の反応点のπ結合への電子非局在化は結合的であるが、E位のσC-H結合から反結合的であることが明らかになった。また、開環反応においてジェミナル結合のうち、内側回転するσC-H結合からもう一方の反応点の形成されつつあるπ結合への非局在化は結合的であるが、外側回転するσC-H結合からは反結合的であることが明らかになった。これらから、環状の遷移状態構造の内側にあるσC-H結合からπ結合への電子非局在化は結合的、外側のσC-H結合からは反結合的であるという共通点が見出された。 ジェミナル結合関与から、1-置換ヘキサジエンのZ体とE体の相対的反応性は、Z位の置換原子の電気陰性度が小さいほどσ結合の電子供与性が高くなるため、π結合への非局在化が起こりやすく、反応性が高いと予測される。理論計算によって得られたZ-およびE-1-置換ヘキサジエンの活性化エネルギーは予測を支持した。同様に、5-置換シクロヘキサジエンの回転選択性は、電気陰性度の小さい置換原子が内側回転しやすいと予測され、理論計算によって得られた5-シクロヘキサジエンの回転選択性から予測の確証を得た。 以上、シグマトロピー反応および電子環状反応におけるジェミナル結合関与を解明し、環状の遷移状態構造の内側に電子供与性のσ結合がある方が、反応が進行しやすいことが明らかになった。
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