研究概要 |
ジフェニルメチリデンシクロプロパン1は溶液中2,2-ジフェニルメチリデンシクロプロパン2へと光異性化することが報告されていたが、その反応機構に関しては全く不明であった。本研究では、この光反応の副生成物として3,3-ジフェニルシクロブテン3が得られてくることや、酸素存在下では2,2-ジフェニルシクロブタノン4も副成することを新たに見い出した。これらの副生成物は、1の光1,2-炭素シフトによって発生した2.2-ジフェニルシクロブチリデン5から2の生成と競争して生成すると考えるのが最も妥当である。実際、シクロブタノン4のトシルヒドラゾンナトリウム塩を光分解してシクロブチリデン5を発生させた時にもシクロプロパン2と共にシクロブタノン4やシクロプテン3が副成してくることを確認した。 さらにメチリデンシクロプロパン1の光反応の置換基の効果も検討した。その結果、1の4,4'-ジメトキシ置換体1bの2bへの光異性化は1aに比べて遅いが、4,4'-ジクロロ置換体1cの光反応は逆に1aより効率良く進行することがわかった。この現象は、中間体シクロブチリデン5の1や2への骨格転位が、カルベン中心への求核1的な1,2-炭素移動で起こっていることを考えれば合理的に説明できる。すなわち、2,2-ジアリールシクロブチリデン5が環縮小反応して1に戻る経路と2をあたえる経路を考えた場合、1を与える経路のほうがフェニル基の電子供与的安定化効果のため、より進行しやすいことがわかる。フェニル基のパラ位に電子供与基が導入されれば、さらに1を与え易くなり、5は1にもどりやすくなるため、みかけ上2への異性化の効率はおちる。これに対し、電子吸引基が置換すると5から1への転位速度は低下してくるため、相対的に2への異性化の効率は上がってくる。
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