我々は過剰のボロントリフレートの存在下キラル酢酸エステルが二度のアルドール反応を起こしジオール体を生成するという新反応(ダブルアルドール反応)を見出した。また、この反応を用いてC3キラルトリオールの簡便な合成法を確立した。さらに、C3キラルトリオールの不斉素子としての利用をはかり、ジケテンやイソシアネートへの付加反応から、対応するトリス(βケトエステル)やトリス(カーバメート)を合成できることを見出した。 ボロンダブルアルドール反応の詳細な研究から、エステルのボロンアルドール反応に関して:(i)エステルのボロントリフレートによるエノール化の当量はエステル:ボロントリフレート=1:2である、(ii)エステルのエノール化において2当量目の"ボロントリフレート"は、ケトンやチオエステルのエノール化における"ボロントリフレート"とは異る、(iii)ダブルアルドール反応は、通常想定されるボロン(モノ)アルドレートを経由していない、(iv)ダブルアルドール反応の2度目のアルドール反応はE-エノレートから進行する、ことを証明した。この特異な反応の反応機構を解明すべく反応をNMRで追跡し、ダブルアルドール反応の反応中間体として、新規な「二ホウ素化エノレート」を同定した。この中間体は、炭素ホウ素結合の生成を伴いながら2分子のボロントリフレートがエノレートに取り込まれている構造である。このエノレートの生成を詳細に検討した結果、「二ホウ素化エノレート」はモノエノレートから「炭素結合ホウ素エノレート」を経て生成している事が分かった。また、各種カルボニル化合物を用いた実験から、「二ホウ素化エノレート」の生成は炭素結合ホウ素エノレートのでき易さと安定性に依るものであることが分かった。今回の研究から、ホウ素エノレートにおける「炭素結合ホウ素エノレート」の重要性が始めて示された。
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