本研究は、数eVの分解能で多元素試料の蛍光X線を同時分析できる、実験室用X線分光器の開発を目的とした。分光法には今回新たに提案した形式、すなわち、試料に対してオフフォーカス・検出器に対してはフォーカス配置で湾曲結晶を複数個並べ、近接位置に焦点を結んだ各元素からの蛍光X線を、一次元検出器(PSPC)で同時計測する方式を採用した。 本年度は、分光器を最適化するためのシミュレーションから始めた。この計算過程で今回採用した分光法が、サブミクロンオーダーの薄膜からの蛍光X線を大きな強度ロスなしに高分解能で分光できる事がわかった。これは応用上重要な利点である。そこで分光器開発と平行して、以下の様に薄膜への応用可能性を実験的に検討した。 試料として様々な膜厚の酸化チタン膜をゾルゲル法で作成し、これら薄膜のTiKβスペクトルを、一枚の湾曲結晶とPSPCで測定した。その結果、薄膜の厚さが0.1ミクロン以上あれば、元素まわりの化学的環境に敏感な、TiKβサテライトバンドが明瞭に観測できる事が判った。この結果は、本分光器によってサブミクロン薄膜の化学状態分析が可能な事を証明するものである(雑誌論文参照)。またチタン酸バリウム薄膜でも、同様の条件で測定できることを確かめた。 分光器は現在、製作途上ではあるが、分光の根幹である3枚の分光結晶(本経費で購入)が想定どおりにX線を分光・集光することは確認済みである。全体を囲う真空チェンバーを含めて年内には全体が完成する予定である。
|