都市河川の河口域では有機物を多く含む堆積物がたまり、嫌気的環境が形成されている。その中で、海水などを起源とする硫酸イオンが悪臭物質の根源である硫化水素などに還元されることが知られている。一方、底質中の鉄化合物は硫化水素と反応して鉄の硫化物へと化学変化する。本研究では、非破壊で鉄の化学状態を分析できる^<57>Feメスバウアー分光法を用いて、いくつかの都市河川で採取した底質中の鉄化合物の化学状態とその垂直分布について検討を行った。その結果、河口域底質のメスバウアースペクトルは、3種類のダブレットと1種類のセクステットから成り、鉄の化学種は、高スピン3価、高スピン2価、パイライト(FeS_2)、磁気分裂成分の4種類が存在することがわかった。ピークの相対面積から各成分の垂直分布を見ると、多摩川河口域の場合、いずれの季節においてもパイライトは深さ20〜40cm付近で層状に分布しているのに対し、主に高スピン2価の鉄が相補的に変動していることがわかった。また、東京都内の内部河川である北十間川および竪川においても、パイライトの層状分布が見られた。一方、相模川では、パイライトの検出されない試料が多かったが、排水処理施設の近くでは同様の層状分布が見られた。これらの底質中に含まれるパイライトの生成には、硫酸還元菌が大きく寄与しているものと考え、実際に底質中に生息する硫酸還元菌の菌体数の垂直分布を、平板培養による間接計数法にて測定した。その結果、パイライトの垂直分布と比較的よい一致が見られた。
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