研究概要 |
1.はじめに これまで,ムコ多糖やデキストラン硫酸などの陰イオン性多糖類を修飾した陰イオン交換体が,陰陽両イオン交換基が共存する結果,無機イオンに対して従来にはない分離選択性を発現することを明らかにした。また,これらの多糖類は光学活性であり,液体クロマトグラフィーの固定相や移動相添加剤として用いることにより光学異性体の分離が可能となることが明らかとなった。本年度は,イオン性多糖類で修飾した固定相を用いて血清試料中の無機イオンの分離のための溶離液の条件ならびにサンプル前処理について検討した。 2.実験 市販の陰イオン交換体を,内径0.32mm,長さ10cmの溶融シリカキャピラリー,または内径4.6mm,長さ15cmのステンレス管に充てんし,各種溶媒で洗浄後,1%の修飾剤を含む水溶液を約2時間通液することによって修飾固定相を調製した。本研究では,ヘパリン,コンドロイチン硫酸ナトリウムなどのムコ多糖およびデキストラン硫酸を修飾剤として用いた。修飾剤は,陰イオン交換体に静電的に導入した。検出器としてUV吸光検出器を用いた。 3.結果と考察 シリカ系の陰イオン交換体に,デキストラン硫酸,ヘパリンあるいはコンドロイチン硫酸ナトリウムなどの陰イオン性多糖類を静電的に修飾し,分離カラムを調製し,溶離液の条件を詳細に検討した。溶離液の種類および濃度ならびにpHを種々検討した結果,硫酸銅水溶液を溶離液として用いることによって,アルカリ金属およびアルカリ土類金属イオンの同時定量を可能とする条件を確立し,血清中の無機陽イオンの分離定量に応用した。分離カラムの前に1cm程度の保護カラムを取り付けることによって分離カラムの寿命を伸ばすことができた。血清試料は,10倍程度に純水で希釈後,メンブランフイルターで濾過し,0.2μLを注入した。 また,ヘパリンを静電的に固定したカラムによる各種タンパク質のアフィニティーを測定した結果,静電的固定法では,トロンボンなどのタンパク質に対して特異的な親和性を見いだすことはできなかった。
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