研究概要 |
固相上に静電的に結合させた界面活性剤集合体(アドミセル)を微量計測工学に応用する場合,次の2つの方法が考えられる。即ち,1)機能性試薬(例えばジチゾン)をアドミセルの疎水性領域に予め含有させておく方法と2)目的元素を予め疎水性キレート(例えばAPDCキレート)に変換しアドミセルに捕獲させる方法である。本年度は,これらの分離過程におけるフミン物質の影響を詳細に検討した。即ち,環境水中にはフミン物質(フミン酸やフルボ酸)が常に存在し,重金属元素の地球化学的挙動や水棲生物への毒性に大きな影響を与えており,フミン物質の分離挙動を知ることは極めて大切である。 まずアドミセル分離媒体におけるフミン酸とフルボ酸の吸着挙動を調べたところ,広いpH領域(pH1〜9)において完全にアドミセルに吸着することが分かった。アドミセルは陰イオン性界面活性剤であるドデシル硫酸ナトリウム(SDS)の集合体であり,これに負電荷のフミン物質が捕集されるのは興味深い現象である。アルミナ担体上のSDS量を2倍に増やしても,依然としてフミン物質の吸着は完全であった。これは,フミン物質が正電荷のアルミナ表面にSDSよりもより強固に吸着するためと思われる。フミン物質と同様に,重金属のフミン錯体もアドミセルに強く捕捉された。アドミセル分離媒体と原子吸光分析やICP-質量分析を組み合わすことにより,微量重金属の総量が測定できることが合成試料や標準試料の分析から確認できた。また,アルミナ担体のみを用いることにより,フミン錯体を金属陽イオンから分別できることが分かった。更に蛍光プローブを用いる実験により,アドミセル内部は通常のミセルに比べてより疎水性が強いことが明らかになった。
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