研究概要 |
本研究ではスペシエーションの基礎的検討から標準化へ発展的させるためのデータの収集を目的として、日本腐植物質研究会作成のフルボ酸とフミン酸の標準試料を有機配位子モデルとして用い、吸着濃縮ボルタンメトリーにより金属イオン滴定を行うことで、ニッケルイオン及び銅イオンの錯化容量(CC)と条件安定度定数(K')の測定を行った。吸着濃縮のための配位子としてジメチルグリオキシム(DMG)及びオキシン(OX)を用いた。得られたCuCC及びNiCCはフミン酸、フルボ酸共にDMGやOXの濃度の増加に伴って減少し、K'は増大した。これはフミン酸及びフルボ酸が、各種の配位可能な官能基を有する高分子量有機物の混合物であるため、種々の錯形成能力を持つ部位が存在するためと考えられる。又、フルボ酸のNiCCを1とした時、フルボ酸のCuCC及びフミン酸のNiCCは約30,フミン酸のCuCCは約450の大きさとなった。これは天然の高分子量配位子の持つ特徴的な性質であると考えられる。これらの結果を平衡論的に理解するために、3種類の異なる配位サイトを仮定し、その存在量と平衡定数を与え、計算で得られた金属イオン滴定曲線を、従来の方法で解析して求まるCCとK'が、実測値と同様な値となるように、繰り返し計算を行った。その結果、実験誤差内で、実測値を再現できる配位サイトの存在量と平衡定数が求められ、フミン酸やフルボ酸中の配位サイトの分布について議論することが可能となった。この解析は、世界に先駆けてなされたものであり、画期的な成果であるといえる。スペシエーションのための多角的な検討として、一般社会へのスペシエーション概念の普及、紫外線を用いた非汚染型試料分解、接触反応を併用した超微量分析法の開発、ランタノイドイオンを識別するための多産配位子の合成及び溶媒抽出への応用、巨大化合物識別のための大環状混合原子価錯体の生成反応についても研究を行い、新規な結果を得ている。
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