研究概要 |
有機溶媒中でのイオンの選択的水和反応は,油水界面イオン移動を支配する重要な要素の一つであり,またタンパク質内部の疎水的環境中の水の動態を理解する上でも重要である.本研究では,^1H-NMR法を用いて重水素置換ニトロベンゼン(NB-d_5)中の各種無機陰イオン(Cl^-,Br^-,I^-,ClO_4^-,NO_3^-,SCN^-)の選択的水和反応について調べた.また,溶媒抽出(+カールフィッシャー水分量測定)に基づいて各種アルキルアンモニウムイオンのNB中の水和数を測定した. まず,NMR分光法によって測定した水分子の化学シフトの解析により,NB-d_5中の各種陰イオンの選択的水和が逐次反応によることが明らかになった.すなわち,従来カールフィッシャー法によって測定された水和数は統計的平均値である.また,縦緩和時間の測定から見積もったイオンに水和した水分子の回転緩和時間(150〜500fS)は,NB-d_5中のフリーな水分子(〜150fs)よりも大きくなり,水分子がある程度イオンに束縛されていることが示された.しかし,3次元的な水素結合ネットワークを形成しているバルク水中の水分子(〜2200fs)よりも小さく,かなりの運動の自由度が残されていることが分かった. なお,カールフィッシャー法により測定した第1,第2,第3級アルキルアンモニウムイオンのNB中の水和数はそれぞれ1.5,1.1,0.7であり,アルキル基の立体障害が重要であることが分かった.
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