平成10年度は以下のように2つの研究計画を併行して実施した。 酸性リン脂質完全欠損で増殖するlpp欠損変異株のサプレッション機構 既に、lpp欠損変異株では、酸性リン脂質が全く欠損した状態でも増殖しうることを発見している。 このことは野生型大腸菌細胞における酸性リン脂質の役割が、従来の理解とまったく異なる可能性があることを示しており、このため以下の2点からこのサプレッション機構を解析した。 i) 完全欠損株の性質:様々な培養条件を検討した結果、完全欠損抹は、低塩濃度培養に感受性であり、高温での培養、アンピシリン、SDSの添加に対しては、pgsA3変異株(総リン脂質の0.3%の酸性リン脂質をもつ)に比べて、顕著に感受性が昂進していることを見出した。これらの結果は、総脂質の0.3%以下の微量の酸性リン脂質を必須とする、未知の膜機能の存在を示唆している。 ii) 代替えとなりうる他の微量脂質あるいは生合成中間体の有無:^<32>Pによるリン脂質の標識実験により、完全欠損株では、生合成中間体ホスファチジン酸が4%にも達すること、また、その他の未同定のリン脂質も総脂質の2.3%に及ぶことが明らかとなった。 酸性リン脂質を必須とする細胞機能に関与する遺伝子の検索 酸性リン脂質の欠損による増殖阻害を抑圧するサプレッサー変異株をさまざまな条件下で分離解析する実験計画において、今年度は、酸性リン脂質完全欠損による高温感受性を抑圧する変異株を48株分離し、高温での増殖速度の違いから、これらの株を9のクラスに分類した。これらのサプレッサーの分離は、mini Tn10(CM^r)のトランスポゾンの挿入による遺伝子破壊により、。これら各クラスから2株ずつを選び、DNAの塩基配列解析を行っており、これにより酸性リン脂質を必須とする細胞機能(とりわけ高温での増殖)に係わる遺伝子を明らかにしつつある。
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