平成11年度は以下のように2つの研究計画を併行して実施した。 i)lpp欠損変異株では酸性リン脂質が全く欠損した状態でも増殖しうることを発見した。lpp遺伝子の発現誘導系を構築し、LPPの誘導合成により細胞が死につつあるときに、LPPが細胞の膜のどこにあり、どのような状態にあるかを検討した。既報の結果からの推定とは異なり、酸性リン脂質の完全欠損においてもLPPはプロセスされ外膜画分に移動していることが示され、LPPの存在状態そのものは酸性リン脂質欠損の致死性と無関係である可能性が示唆された。 ii)酸性リン脂質の欠損による高温感受性を抑圧するサプレッサー変異株を解析する計画において、今年度は、得られた変異株48株の約半数がrcsCとrcsFの挿入破壊によることを明らかにした。更にrcsB変異の導入によりこの変異が同様に高温感受性を抑圧することを示した。これらの事実からrcs制御系の支配下にあることが知られるcps(capsular polysaccharide synthesis)の転写レベルを測定したところ、酸性リン脂質の欠損によりcpsB転写物の顕著な昴進と、サプレッサー変異株における、昴進した転写の野生型株レベルへの復帰が見出された。しかしながら、cpsB遺伝子の破壊そのものによっては、高温感受性はサプレスできなかった。これらの事実は、rcs制御系の支配下にあるcps以外の何か別の遺伝子の発現の昴進が高温感受性をもたらすこと、また酸性リン脂質欠損がMDOの欠損をもたらしrcs制御系を昴進させる可能性を示唆した。残された半数の変異株にはrcsCとrcsFに挿入変異は無いことを明らかにした。このことは、これらの変異の塩基配列解析が新たな知見に導く可能性を示しており、これは新規課題とすることとした。
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