D.melanogasterとその不縁種のミトコンドリアDNA(mtDNA)においては、複製や転写の開始点を含むA+T-rich領域は2種類のリピートエレメントから構成され、エレメント内には種間で高度に保存された配列(保存領域)が存在する。本研究では、A+T-rich領域の一部の塩基配列の決定を試み、melanogaster complexに属する4種7タイプのmtDNAをあわせた解析を行い、A+T-rich領域内の機能的な配列について考察した。 (1)A+T-rich領域中央部分とtRNA^<ile>遺伝子に隣接する部分のそれぞれについて、D.simulans、D.mauritiana、D.sechelliaの3種6タイプのmtDNAを用いて塩基配列を決定した。すべてのmtDNAタイプに、D.melanogasterと共通したリピート構造が見い出されたが、それぞれに挿入配列や短いリピートなどの特徴的な配列がみられた。 (2)D.melanogasterとD.yakubaの配列をあわせて塩基置換について検討したところ、いくつかのmtDNAタイプの保存領域においては、塩基置換が加速している傾向が見い出された。この加速は、保存領域には何らかの機能があり、塩基置換によってその機能的な制約が消失したためと考えられる。 (3)保存領域内に形成されるステムループ構造については、二次構造検索プログラムによる予測と、クローンDNAにおけるS1ヌクレアーゼの認識部位が概ね一致した。さらに、タイプIIリピートのすべてを含むmaIIタイプのクローンを詳細に検討した結果、配列の検索からは2ケ所に予測されるステムループ構造が、実際のプラスミドDNA分子内では1ケ所のみに形成されていた。 以上の結果は、複数の保存領域をもつmtDNA分子においても、保存領域はおそらく複製開始に関わる機能を維持しつつ進化し、実際に複数開始点となる安定なステムループ構造は何らかの機構によって1ケ所に定められている可能性を示唆するものである。
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