我々は新規の細胞外マトリックスである、テネイシンX(TNX)の機能解析と分子進化的研究を行ってきた。TNXは全長約70kbの遺伝子にコードされ、分子量約450kDaの巨大な多機能型タンパク質である。TNXの生体内機能を明らかにするために、酵母を用いたtwo-hybrid法によりTNXと結合する分子の探索を行った。その結果血管内皮増殖因子であるVEGF-Bが得られた。生化学的な手法によってもTNXとVEGF-Bの結合が確認され、TNXはVEGF-Bの二つのオルタナティブスプライス・フォームであるVEGF-B_<186>、VEGF-B_<167>共に結合することが示された。また、VEGF-BはTNXと、VEGF-Bレセプター(VEGFR-1)の結合部位とは異なる領域で結合することが明らかとなり、VEGF-Bを介してTNXとVEGFR-1は三者複合体を形成することが示された。次に、ECV304細胞を用いて[^3H]-チミジンの取り込み実験によりVEGF-Bの増殖促進活性におけるTNXの効果を調べた。その結果全長のTNX、VEGF-B共存下では、VEGF-Bのみに比べ、細胞増殖活性が約5.4倍に促進することが明らかとなった。TNXは血管周囲でその発現が高く、TNXの機能としてVEGF-Bとの結合による血管形成の制御が示唆される。 次に我々は、TNXの遺伝子発現の調節機構の解析を目指し、プロモーター領域の解析を行った。まずマウスTNX遺伝子のプロモーター領域約3kbのデレーションクローンを作成しルシフェラーゼアッセイにより、プロモーター活性を測定した。その結果、TNXの遺伝子発現を正(誘導)に調節する領域として-141から-136の領域を同定し、転写因子Sp1結合配列に相同性を持つことが明らかとなった。次にSp1がこの-141から-136の領域に結合していることを生化学的に明らかにするために、ゲルシフトアッセイを行った。その結果正に調節する領域にはSp1が結合することが生化学的にも明らかとなり、TNX遺伝子の転写制御にSp1が関与することが明らかとなった。
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