研究概要 |
本年度は,イソウロウグモ類の餌捕獲様式と生活史の概略を昨年に引き続き調べるとともに,ミトコンドリアDNAを用いて種間の系統関係を解析した. 1)餌資源利用:本年度の調査により,新たにシロカネイソウロウグモ,ハナナガイソウロウグモで寄主の糸を食べる行動が観察された.したがって,イソウロウグモ類における糸食いは,餌盗みに次いで広く見られる餌捕獲様式であることが明らかになった. 2)生活史形質:野外調査により,チリイソウロウグモは夏に繁殖する年1世代であることが判明した.また,シロカネイソウロウグモは,5月頃と夏場に大型個体が見られたことから,年2世代であると推定された.従来の知見と総合すると,クモ食いの仲間と大型のチリイソウロウグモは基本的に1世代で,アカイソウロウやシロカネイソウロウと言った小型の餌盗みないしは糸食いをする仲間は多化性であると言える.これには餌の利用可能量が関係していると思われる. 4)分子系統樹:6種のイソウロウグモおよび外群としてオオヒメグモとヒメグモを対象に,ミトコンドリアのチトクローム酸化酵素のサブユニットIについて塩基配列を決した.その結果,クモ食いのヤリグモやフタオイソウロウはひとつのクレードを形成した.したがって,クモ食いと餌盗み/糸食いは,それぞれが分岐して進化したと推測される. 5)まとめ:以上より,イソウロウグモはクモ食いから餌盗みというより資源が安定的に得られる餌捕獲様式へと転換することで,多化性という生活史を発達させることができたと考えられる.
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